*多奈side to True Ending*

十二月に入って、もう一週間。
もう、有希の事件は過去のもので、自分の周りで語られることはなかった。
そうしてくれた方が、自分も変に思い出すことがなくなり、気が楽だと思えるようになった。
有希の死は現実。
そう割り切って自分を無理矢理押さえ込んだ。
もう、その無理矢理に自分も慣れてきた。
悲しいことだけど、それはもう否定しようのない事実だ。

ふと、思い出す。
「犯人は捕まったのだろうか・・・」
元々、自殺と発表されていたのだから、犯人逮捕が報道されるわけが無い。
それが逆に私をいらだたせた。
捕まっていないのなら、犯人は有希を殺したまま、のうのうと生きている。
私の親友の未来を奪った悪魔にしか思えない。

気持ちを落ち着ける。
ここで、私がいらだっても意味が無い。
有希の記憶があったとしても、彼女は私に復讐とか怒りとかを持ってほしくは無いだろう。
私は私の親友に対して何が出来るのだろう・・・

「そういえば、有希のお葬式にも出てない・・・」
私は、有希の葬式に行った。でも出ていない。
有希の家の前に立って、眺めただけ。
家に入ってしまえば、自分の大切な思い出が壊れてしまうと思ったから。
そのときは、有希が死んだとは信じられなかった。
だから、泣いてもいない。親友の死に私は親友の前で涙を流していない。
それは、自分にとって今更ながらの後悔であった。

次の日、私は遠野家を訪ねた。
勿論、有希の前で手を合わせるため。

「「ピンポーン」」

「はーい」
三里さんの声。
「あら、多奈ちゃん!」
「お久しぶりです。突然、居なくなってご迷惑をおかけしました。」
「そんなことないわ、さあ、上がって。有希に手を合わせてあげて。」

改めて言われると、胸が締め付けられる。
もう慣れたと思っていたのに。

「有希。多奈ちゃんが来てくれたわよ。」
「有希・・・」

そこには菊の花と、満面の笑みでこちらを見る有希の“写真”があった。

「もう、ホントにいないんだね・・・」

手を合わせ、有希の冥福を祈る。

「有希・・・あの時、私が有希の記憶、能力を無くしていなかったら・・・有希は、今・・・」

もう考えないようにとしていたのに、いざ亡き親友を前にすると、そんな薄っぺらいガードはすぐに剥がれ落ちてしまった。

・・・涙が止まらない。

今すぐにでも、声を出して泣きたいと思った。
有希の遺影を見る。
そこには変わらず、笑顔の有希がいた。

『多奈ぁ、泣かないの!皆が泣いてるの見たらこっちが悲しくなるからさ。笑顔笑顔!』
「え・・・?」

有希の声が聞こえた・・・
当然、有希がいるわけがない。
でも、そばに有希がいるような気がする。
無理に笑おうとする。笑って有希に答えたいのに涙が止まらない。

ひとしきり、笑顔で涙を流したあと、三里さんにお礼をいい、帰路についた。
途中、あのイチョウ並木を通る。
すっかり葉の落ちたイチョウの木は閑散としていた。
でも、あの日、私と有希が出会って別れたこの場所は変わらない。
また来年もイチョウが輝く季節が来るだろう。
そのときは、ここで、笑って有希との思い出に浸りたいな・・・とらしくもないことを考えては頬が緩む。

「有希、またイチョウの舞う季節に会おうね・・・」


数日後、三里さんを訪ねると、犯人が捕まったということを教えてくれた。
その前に、報道の差し替えとかの話を聞かせてくれたりした。
でも、私は、嬉しくもなんとも無かった。
有希を死に追いやった犯人が捕まるのは嬉しいはず。
ただ、犯人が捕まったところで有希は返らない。
それは紛れも無い事実だった。
でも、それで、有希が少しでも浮かばれるのなら・・・
私は素直に喜ぼうと思う。

そして、私は有希に手を合わせる。
もう、私は有希の前では泣かないと決めた。
           今度からは、笑顔で、手を合わせようと思う・・・
                           ---End---
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トゥルーエンド後、バージョン。
多奈が有希に手を合わせるところで、自分で書きながらも涙目になってしまった(
結構、流れで書いてるんで、アレなところもあると思います。そこのところは目溢しをお願いしたいと思います
結局、こんな終わり方ですが、自分では満足してますね。我ながらといったところでしょうかw
お気に召さない方もいらっしゃると思います。というかそっちのほうが大多数ですね。
遠慮なく引っ叩いて下さい。
こんな駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
                           ―とろ―