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「『こばととすばる』 -六浦小鳩の憂鬱-」 お父さん、元気ですか?転勤してからの生活にも慣れましたか?小鳩は元気です。 春に県立千年谷高校に入学してから1ヶ月・・・私も少しずつ高校生活に慣れてきました。 私がまだ小学生だった頃、この学校で殺人事件があって、入学したての時は少し不安だったけど・・・その時の噂もなく、まるで、そんなことがなかったかのように平和な学校です。 高校に入ったら何か新しい部活を始めようと思って、色々な部活動を見たけど、結局決められないままだけど、毎日色んな出来事がありすぎて楽しい・・・です。 それじゃあ、お父さんも早く新しい職場に慣れてね。早く帰ってこれるように頑張ってください。 小鳩 PS.最近、お母さんが通信空手を始めました。 「ふぅ・・・はぁ〜・・・」 小鳩は憂鬱だった。別に高校生活が楽しくないわけではないし、母親が奇声を上げているわけでもない。高校生活は、大人しい性格のせいかクラスに中々馴染むのに時間がかかったが少しづつ話せる友達もでき、充実しているし、母親が奇声を上げているのも今に始まったことではないので今更気になることではない。 では何故、彼女は憂鬱なのだろうか ピピピピピッ ピピピピピッ その時、携帯が鳴った。着信画面に表示されている名前は「片品すばるさん」。千年谷高校3年で、小鳩の部活の先輩である。 「はぅぅぅうう・・・」 小鳩の憂鬱の原因はこの人だった。父親に宛てた手紙には部活には入っていないと書いているが、実際には加入していた・・・いや、加入させられていた。 彼女が入っているのは科学部・・・校内で知らない者は死を意味することで有名で、その噂は近隣校にも知れ渡っている程だ。 その科学部に六浦小鳩が入ってしまった経緯は、また別の時に話そう。とにかく、科学部に入ってしまった(入らざるを得なかった)ことで、小鳩の高校生活の3分の1は終わったと言っても過言ではなかった。それが憂鬱の原因だ・・・そんな心配させることをわざわざ父親に知らせるわけにはいかなかったし、知られたくなかったのだ。 「あっ・・・出なきゃ」 急いで携帯を手にとる。また怪しいものを体に打たれては堪らない、思い出したくもない事が脳裏をよぎる。すばるの機嫌を損ねる=自分への被害が拡大するということは、すばるに出会ったその日に思い知ったことだった。 ピッ 「はい、すばるさん・・・何の用ですか?」 すばるからの電話でまともな用件だった試しがない。というより携帯の番号をどうやって知ったのか、未だに教えてもらっていない・・・。 「あらあら、そんな警戒するような声することないじゃない」 「いえ・・・そんなことはないですよ」 「うふふ・・・まぁいいわ、明日学校に持ってきて欲しいものがあるのよ」 「何ですか?」 「ジャガイモ」 「・・・・・ジャガイモ?」 「そうよ、当然北海道産よ。その他は邪道だから」 じゃがいもなんて何に使うのだろうか。未だに、この人の考えることはわからない。いや、わかりたくもないし、わかることは絶対にありえないだろう・・・絶対に。 「・・・今度は何するんですか?この前、キュウリをロケットみたいに飛ばしましたよね?しかも背後から・・・」 「うふふ、今度はあの程度じゃないわ。きっといい結果が出るはずよ」 この人のいい結果って何なのだろうか。だいたいキュウリ飛ばした時だって、なんで男の人の背後ばかり狙ってたのか、さっぱりわからない。 何を考えても理解できないし、何を聞いても答えてくれないことはわかっていたので、考えることはやめた。 「わかりました。それで、どれくらい持ってくればいいんですか?」 「そうねぇ・・・3ダースくらいでいいわ」 「3ダース!?!?」 「そうよ、3ダースくらいあればいいと思うのよ」 3ダースものじゃがいもを何に使うのだろうか・・・というか、どうやって3ダースものジャガイモを運べばいいのだろう。 「それじゃあ、よろしく頼むわね。もし持ってこなかったら・・・」 「わゎゎっわかりました!絶対、必ず持っていきますから!」 「そんなに張り切ることないのに・・・うふふ、まぁいいわ。じゃあよろしくね」 「はい・・・・・・」 「あぁ、そうそう。もう一つ言うことがあったわ」 「何ですか?」 「ちょっと使うから銀行の通帳と暗・・・」 「帰れ!!!」 ピッ 携帯を置く。目線を天井に上げ、深く深呼吸をする。 「はぁぁぁぁぅ・・・・・・」 小鳩の憂鬱は続く。 頑張れ小鳩、負けるな小鳩。君もいつか幸せな高校生活が送れ・・・・・・ないかもしれない。 続く |